ボウリングボールに香りが付けられていると聞くと、多くの人は意外に思うだろう。だが、STORM社のボールは世界中で「香り付きボール」として知られ、ブランドの代名詞となっている。その存在は単なる話題作りではなく、選手の心理や競技スタイルにまで影響を及ぼしてきた。
この記事では、STORMボールのフレグランス文化を取り上げる。なぜ香りが付けられるようになったのか、どのような心理的効果があるのか、さらには試合における思わぬ駆け引きまで、香りがボウリングにもたらした新しい次元を探っていく。
香り導入のきっかけ
いくつかのアメリカのファンサイトによれば、STORM本社の幹部の妻が「ボールの臭いが嫌だ」と言ったことが発端だと伝えられている。ボウリングボールは素材の性質上、独特の化学的な匂いを放つことがある。それを解消し、より快適な環境を作るために香りを加えることになったというのだ。
実際にSTORMのフレグランスボールが登場したのは2000年の春。21世紀の幕開けに合わせ、新しい試みとして「香り付きボール」が誕生したとされる。単なるユーモアやマーケティング戦略だけでなく、「新世紀にふさわしい革新を」という企業文化の表れでもあったのだろう。
香りがもたらす心理的効果
では、なぜ香りを付けるのか。その理由の一つは「リラックス効果」である。人は自分の好きな香りを嗅ぐと心が落ち着き、自然な動作がしやすくなる。競技スポーツにおいても香りは無意識に集中を促す要素となりうる。
STORMのスタッフが語ったエピソードは興味深い。ある技術者は「ベリーの香りが心を落ち着ける」と述べた。理由は、幼少期に母親と一緒にブルーベリーパイを作っていた記憶と結びついているからだという。香りは過去の記憶を呼び起こし、心をストレスのない子供時代へと一瞬で引き戻す。その結果、選手は余計な緊張を取り払い、投球に集中できる。
また、NBC News(アメリカ放送局NBCのニュースサイト)の記事でも「香りがルーティーンの一部となり、投球前の安心感を与える」と指摘されている。野球選手がバットを回したり、テニス選手がボールを弾ませたりするのと同じように、香りもボウラーにとって儀式的な安心要素となるのだ。
戦略的な副作用
香りの効果は必ずしも本人に限定されない。場合によっては「相手を乱す」ことにもつながる。試合中、相手選手が自分のボールの匂いを嫌がることで、感情が不安定になったり、集中力を欠いたりすることがあるのだ。
PBAツアー通算5勝を挙げたライアン・シェイファーもその一例である。彼は2003年のカンザスシティでの試合で、相手選手が黒いリコリスの香り付きボールに気を取られていたことが勝利の要因かもしれないと語っている。「彼が『そのボールを使わなければならないのか?』と聞いてきたので、『はい、このボールでうまくいっているので!』と答えた。だから勝てたのだと思う」と述べた。
もちろん、STORMが意図的に「相手を狂わせるための香り」を開発したわけではない。だが結果的に、香り付きボールは心理戦の一部として機能する場面も生まれたのである。香りはリラックス効果だけでなく、思わぬ形で試合の流れに影響を与えることもあるのだ。
まとめ
STORMのボールフレグランスは、やがて選手の心理を支え、試合の流れを変える可能性すら持つ独自の文化へと発展した。単に「良い匂いがするボール」ではなく、リラックス効果、記憶の呼び覚まし、そして対戦相手への影響といった多面的な力を秘めている。
2000年の春、STORMが世界に放ったこの小さなイノベーションは、ボウリング文化における「香り」という新たな次元を切り拓いたのである。