ボウリング大好きな漫画家は誰かと尋ねられたら、多くのファンは間違いなく渡辺大樹先生と答えるだろう。彼の代表作『きゅぽかの』は読者に長く愛され、作品をきっかけに開催されたイベントもファンの交流の場として定着している。渡辺先生自身も熱心なボウラーとして知られ、競技と深く関わり続けてきた。
そんな渡辺先生が本格的にボウリングを始めたのは、意外にも30歳を迎えた頃のこと。体調管理の一環として訪れたボウリング場でマイボールを手にしたことが転機となり、そこから18年にわたって競技を続けてきた。今ではファンイベントの開催や交流を通じて、競技の裾野を広げる存在にもなっている。
今回は、渡辺先生に「ボウリングを始めたきっかけ」から「プロを目指さなかった理由」、さらに「30歳からでもプロを目指せるか」という問いまで、幅広く語っていただいた。ボウリングを愛する漫画家ならではの視点が随所に光るインタビューとなった。

ボウリングとの出会い
ーボウリングを始めたきっかけを教えてください。また、何歳から投げていますか?
渡辺大樹先生(下記渡辺): 本格的に始めたのは30歳の頃で、現在48歳なので18年目になります。子どもの頃は家の近くにボウリング場があり、友達と遊びでハウスボールを投げる程度でした。
20代後半に漫画の連載が決まり、運動不足で体調を崩していたときに、友人に誘われて地元の久米川ボウルに行ったのが転機です。ちょうど「3回来場でマイボールをプレゼント」というキャンペーンをやっていて、友人と一緒に通い、ボールを作ることになりました。追加料金を払えば曲がるボールにできると聞き、それを選びました。
本来は右手で作業をしていますが、筋肉痛で漫画が描けなくなるため、遊び感覚で左手で投げ始めました。幼少期には左手も使っていたそうで、「それならいっそマイボールは左手で作ろう」と決め、そこから本格的にボウリングを続けるようになったのです。
ー絵を描くこととボウリング、この2つのうちどちらが好きですか?
渡辺:漫画や絵はすでに生活の一部であり、仕事にもなっています。描きたい、表現したいという気持ちは常にありますが、自分にとっては呼吸や会話のように当たり前の存在なので、「好き」という意識を超えているんです。
一方で、ボウリングは純粋に趣味として楽しめるものです。運動不足を解消したり、仲間と会えたりする場でもあるので、とても好きです。漫画や絵は「自分そのもの」ですが、ボウリングはリフレッシュの時間を与えてくれる大切な存在ですね。
ーいつも一緒に投げている仲間はいらっしゃいますか?
渡辺:投げ始めて18年の間に、仲間も変わってきました。最初は同級生の友人と一緒に投げていましたが、その後は週1回集まる仲間と過ごすようになりました。現在はイベントを中心に活動しているので、茨城の仲間をはじめ、イベント参加者の方々がそのまま仲間になっています。イベントを通じて応援してくれる人が増え、時には一緒に食事をするなど、ボウリングをきっかけに仲間が全国に広がりました。

プロボウラーを目指さないワケ
ープロ試験を受けよう、プロボウラーになろうと考えたことはありますか?
渡辺:マイボールを作った最初の頃は、「自分には才能があるかも」と思い、プロになるのもいいなと考えたことはあります。ただ、突き詰めて考えていくうちに、今の生活スタイルや自分の体をどこまで高められるかを思うと、プロとしてやっていくのは難しいと感じるようになりました。
実際にプロボウラーの方々とイベントや試合で一緒に投げると、その差を強く実感します。技術や知識の深さはもちろんですが、何よりもボウリングに対するひたむきさが違うんです。僕自身も上達することや心地よく投げることは好きですが、一番の違いは「勝ち負けへのこだわり」です。
僕は負けても、その瞬間が楽しかったり、ファインプレーが出たりすれば満足してしまいます。「あの一投は良かったね」と言い合えるだけで十分に楽しめるんです。しかし、プロはそうではなく「ここで勝たなければならない」「絶対に結果を残す」という強い気持ちを持っています。彼らはアスリートであり、そこが僕には欠けている要素だと思います。だからこそ、プロは自分には向いていないのではないかと感じています。
ー渡辺さんは30歳から本格的にボウリングを始められました。同じように30歳でボウリングに夢中になり、プロを目指す人はプロになれると思いますか?
渡辺:可能性は十分にあると思います。ボウリングにはトレンドがあり、その人が持つ技術や知識、これまでの運動経験といった素養、そしていわゆる才能がベースになります。人生をかける覚悟があれば、30歳からでもプロを目指すことは可能です。
ただし、大事なのは「プロになった後にどうするのか」という点です。現状、男子も女子も賞金額は高くなく、賞金だけで生活できるプロは限られています。だからこそ、賞金以外の部分にどれだけ価値を見出し、プロという肩書をどう活かすのかが重要です。そのためには覚悟やプラン、そして「これを成し遂げたい」という希望や野望が欠かせません。
昔の侍に例えると分かりやすいかもしれません。刀が強ければ良かった時代から、江戸時代になると剣を持つ誇りはあっても、それだけでは生活できない時代になりました。同じようにプロボウラーも、「プロである」というプライドを持ちながら、どうやってボウリング界を盛り上げ、社会に価値を提供していくかが問われます。そこに明確な意志がなければ、プロでやっていくのは難しいと思います。
渡辺先生は、30歳からボウリングを本格的に始め、18年のキャリアを歩んできた。その中で「プロは自分には向いていない」と語りつつも、ボウリングを心から楽しみ、仲間やファンとの交流を大切にしてきたことが伝わってくる。
また「30歳からでもプロを目指すことは可能だが、プロとして何を成し遂げるかが重要」と語った言葉には、漫画家として第一線で活躍してきた経験に裏打ちされた重みがある。
インタビューの続きでは、『きゅぽかの』をはじめ、渡辺先生の漫画家としての歩みや創作の舞台裏に迫ります。パート2は近日公開予定。どうぞお楽しみに!