全日本初制覇、その先へ…野仲美咲が語る33ゲームの真実【独占】

野仲美咲 写真:ご本人提供

2025年12月11日から13日にかけて埼玉県・新狭山グランドボウルで開催された『HANDA CUP・第57回 全日本女子プロボウリング選手権大会』。今シーズンの女子プロボウリングを締めくくる最高峰の大会で、プロ2年目の野仲美咲が激戦を制し、見事に全日本初制覇という偉業を成し遂げた。

全33ゲームに及ぶ過酷な戦いの中、予選から準決勝を経て決勝ステップラダーへと勝ち上がった野仲は、タイトル経験豊富な実力者たちを相手に堂々たる投球を見せた。その結果、栄冠を手にした瞬間は全国のボウリングファンに大きな感動を与えた。

一方で、今回の独占インタビューを通して見えてきたのは、単なる”若きチャンピオン”という言葉では括れない姿だった。派手な自己主張はなく、一つひとつの課題と真摯に向き合いながら、着実に力を積み重ねてきた野仲美咲というボウラーの素顔が、言葉の端々から浮かび上がってきた。

ここからは、独占インタビューで本人から聞いた言葉をもとに、全日本選手権を振り返る。


時間が経つほど実感した優勝。勢いを生んだワンショットプレーオフ

ー全日本選手権優勝、おめでとうございます。改めて今の率直な気持ちを聞かせてください。

野仲美咲(下記野仲):ありがとうございます。優勝した初日は本当に時間がなくて、「嬉しいな」という気持ちだけだったんです。でも長野に帰ってきて、たくさんの方に「おめでとう」と声をかけてもらって、改めて「本当に優勝したんだな」と実感しました。時間が経つにつれて、感動と嬉しさがどんどん大きくなっています。

ー今大会を振り返って、気持ちが一番揺れ動いた場面はどこでしたか?

野仲:大きかったのは、ステップラダーで中島瑞希プロと戦った4位決定戦のワンショットプレーオフですね。「ここで勝てたら、きっと勢いがつく」と感じた場面でした。中島プロの気迫も本当にすごくて、その中で勝てたことが大きかったと思います。


野仲美咲 写真:ご本人提供

最大の山場は55フィート。5パターンへの向き合い方

ー予選を含めて、特に印象に残っているコンディションは?

野仲:予選第4シリーズの55フィートですね。一番苦手なコンディションで、しかも最後のシリーズだったので、「ここでスコアを落としちゃいけない」という気持ちと、周りが打っていることへの焦りもありました。でも、冷静にスペアを取って耐えられたのは良かったと思います。

ー5つのオイルパターンについて、得意・不得意は事前に分かっていましたか?

野仲:はい。38フィートは練習の段階から一番手応えがありました。逆に30フィートと55フィートは大会で投げたことがなくて、練習と本番では印象も違って、不安は正直ありました。


33ゲームの鍵はリズム管理。準決勝と鬼門の初戦

ー長丁場の33ゲームで、特にしんどかった場面はありましたか?

野仲:意外と「しんどい」と感じる瞬間はなかったですね。ただ、準決勝で4人打ちから2人打ちに変わると、リズムが大きく変わります。投げるテンポが早くなって、考える時間が減ることで焦りが出やすいので、準決勝が始まる前から「投げ急がない」ことだけは強く意識していました。

ー決勝のステップラダーで、特に意識した対戦はありましたか?

野仲:私はスタートダッシュが苦手なので、最初に当たった中島瑞希プロとの試合が、自分の中では一番の鬼門でした。ワンショットで勝てたことで、「この勢いでいける」と気持ちを切り替えられたのが大きかったです。


野仲美咲 写真:ご本人提供

祝福の中で実感した重み、そして語られた次への覚悟

ー優勝から10日ほど経ちましたが、一番印象に残っている出来事は?

野仲:試合前や試合中は、これまでと同じようにレーン攻略をしていただけでした。印象的だったのは、やはり優勝後です。たくさんの方に祝福していただいて、中には私のために涙を流してくれる人もいて…。それを見て、「優勝って、こんなにすごいことなんだ」と改めて感じました。

ー優勝直後インタビューで「ここからがスタート」と話されていました。来季に向けて続けたいことは?

野仲:今回は5パターンあったので、かなり前からこの大会を意識して準備してきました。週に2〜3回はパターンを引いて投げていました。その準備ができるかどうかが、優勝できる人とできない人の違いなのかなと感じています。

来年は、一つ一つのコンディションにどれだけ細かく向き合えるか、自分自身とどれだけ向き合えるかを大切にしたいです。一試合一試合を踏みしめる気持ちで投げていきたいと思います。


派手さはない。だが、確かな強さがそこにあった

飾らない言葉で、目の前に起きた出来事を一つひとつ素直に受け止める。その語り口から伝わってくるのは、結果を誇る気持ちよりも、これまで「向き合ってきた時間」への確かな実感だった。

特別な才能や勢いに頼るのではなく、課題と正面から向き合い、誠実に努力を積み重ねてきた日々。その姿勢が、インタビューの言葉の端々からにじみ出ていた。派手に自分を大きく見せることはないが、起きた結果を真っ直ぐに受け止め、次に向けて何を続けていくべきかを静かに見つめている。

まじめに、地道に、ひたむきに。そうした姿勢が一本の線となってつながり、その先にあったのが全日本選手権制覇という結果だった。

この優勝を「ゴール」ではなく「スタート」と語る野仲美咲。その言葉どおり、彼女はすでに次の一歩を見据えている。静かな覚悟とともに続いていく挑戦が、これからどんな景色へとつながっていくのか。その歩みを、また見届けたくなる、そんな余韻を残すインタビューとなった。

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