12月18日から20日まで開催される『HANDA CUP 第59回全日本プロボウリング選手権大会』を目前に控え、相模原パークレーンズを拠点とする永野すばるに話を聞いた。40期生で、2020年全日本プロボウリング選手権覇者という実績を持つが、その肩書きから受ける印象とは対照的に、語り口は終始穏やかで、言葉の端々からは誠実でまじめな人柄がにじみ出ていた。
派手な自己主張を前面に出すタイプではない。しかし、落ち着いた佇まいの奥には、長いキャリアの中で培われた経験と、再び頂点を見据える確かな闘志が感じられた。
王者のその後。結果が出ない時間と向き合って…
2020年の全日本選手権制覇後について、永野は「2020年の優勝後、21年くらいまでは比較的良い状態で投げられていました」と振り返る。一方で、その後は必ずしも順調とは言えない時期が続いた。フォームや考え方を見直しながら挑戦を重ねる中で、結果が思うように出ない時期もあったという。
そうした期間についても、永野は過度に感情を込めることなく、「自分の中で、いろいろと試していた時間でしたね」と淡々と受け止めていた。焦りや迷いを表に出すことなく自身と向き合い続けてきた経験が、現在の安定した投球感覚につながっている。

「出なきゃ」から「出たい」へ。全日本との向き合い方の変化
全日本選手権に対する向き合い方も、キャリアとともに変化してきた。かつては「出なければならない大会」という意識がどこかにあったというが、現在はその位置づけが大きく変わっている。
永野自身、「今は、自分からこの舞台に立ちたいと思えています」と語り、義務感ではなく、現在の自分の状態を確かめ、再び勝負したいという思いで全日本に臨んでいることを明かした。その前向きな意識の変化が、落ち着いたメンタルや安定した投球イメージにつながっているようだ。
今季最終戦へ、確かな手応え
今季最終戦となる全日本選手権に向けた手応えについて、永野は落ち着いた口調で語った。現在の状態については、「ここ数年の中でも、自分としてはかなり良いイメージで投げられています」と明かし、続けて「今シーズンは、しっかり優勝に絡みたいですね」と意欲を示した。
36ゲームに及ぶ全日本選手権は、運だけでなく総合力が問われる長丁場だ。その厳しさを熟知している永野だからこそ、言葉には過度な力みはなく、現在の状態に対する確かな実感がにじんでいた。

準決勝を見据えた現実的な戦略
全日本選手権を戦う上で、永野が特に重視しているのが準決勝までの立ち回りだ。まずは準決勝進出を最優先に考えており、「まずは準決勝に残ること。その中で、決勝進出の4位以内、もしくは最低でも100ピン差以内で迎えたいです」と具体的な目標を示した。
大会序盤は無理に攻め込まず、レーンコンディションを見極めながら我慢する展開を想定。その上で、得意とするロングコンディションで差を詰め、あるいは広げていく構えだ。長年トップレベルで戦ってきた経験に裏打ちされた、現実的かつ冷静な戦略と言える。
見てほしいのは準決勝での「守り方」と「立ち回り」
ファンに注目してほしいポイントについて尋ねると、永野は準決勝での戦い方を挙げた。「準決勝での、自分の守り方や立ち回りを見てほしいですね」と語り、決勝進出となる4位以内に入るためには、この準決勝をどう戦うかが最も重要だと強調する。
その上で、準決勝で求められる判断の難しさについても言及した。「攻めすぎてもダメですし、守りすぎてもダメ。その場の状況を見ながら、どこで我慢して、どこで点数を取りに行くか。判断力が問われる場面だと思っています」と、冷静な駆け引きの重要性を語った。
派手なストライクの連発ではなく、難しいコンディション下での一投一投の選択やリスク管理、そしてスコアメイク。そうした細部にこそ、永野という選手の真価が表れる。
「男子プロの面白さって、そういう細かい部分にあると思うんです。点数だけじゃなく、どう考えて投げているかを見てもらえたら嬉しいですね」。競技の奥深さを知るベテランらしい言葉が、準決勝という舞台への思いを物語っていた。

経験を背負い、再び全日本の舞台へ
若手の台頭が続く男子プロボウリング界において、永野すばるは40代のベテランとして、競技の奥深さを体現する存在の一人だ。派手さこそないが、その一投一投には、これまで積み重ねてきた時間と経験が凝縮されている。
「もう一度、全日本選手権で優勝したい」
静かな口調で語られたその言葉には、揺るぎない意志が込められていた。迷いを越え、義務ではなく自らの意志で立つ全日本の舞台。準決勝での一投一投が、永野すばるのこれまでの歩みと現在地を映し出すことになりそうだ。
全日本選手権で見せるその戦いぶりは、今の永野の強さを端的に物語るものとなるだろう。