PWBA(全米女子プロボウリング協会)プロボウラーのダリア・パヨンクが、2025年10月に起きた電動スクーター事故からの復帰、そして現在の心境について語った。この事故では両肘を骨折する重傷を負い、ツアー離脱を余儀なくされるなど、キャリアにも大きな影響を与える出来事となった。
約6か月にわたるリハビリ期間を経て、彼女は少しずつレーンへと戻りつつある。突然のアクシデント、長期の回復過程、そして再びボールを手にするまでの葛藤。トップアスリートとしての強さと苦悩の両面が、このインタビューから浮かび上がる。
さらに、日本のファンへの特別な想いや、これまでの交流の中で感じてきたことについても率直に語った。競技者としてだけでなく、一人の人間としてのダリアの姿に迫る内容となっている。

事故の詳細とその瞬間「現実感がないまま体が投げ出された」
ー事故から約6か月が経ちました。どのような事故だったのか教えていただけますか?かなり怖い経験でしたか?
ダリア・パヨンク(下記ダリア):事故は、ボウリングの用事を終えた後に起きました。ある方がとても性能の高い電動スクーターを持っていて、私のシンプルなものよりもずっと進化しており、しっかりとしたサスペンションで乗り心地も非常に滑らかでした。外で一緒にいた人たちから試してみるように勧められ、最初はためらってあまり乗り気ではなかったのですが、最終的には試してみることにしました。
その時気づいていなかったのは、そのスクーターには前輪ブレーキと後輪ブレーキの2つがあるかもしれないということでした。私は自分のスクーターと同じ感覚で前輪ブレーキを反射的にかけてしまい、タイヤが完全に止まり、体がスクーターの前方へと“投げ出される”形になりました。両肘、両手首、そして腰の骨に衝撃が集中しました。長袖と長ズボンを着ていたのは幸運で、大きな擦り傷は避けられ、服が破れたことで軽い傷や打撲で済みました。
恐怖というよりも、現実感がないような感覚でした。体が浮き上がった瞬間、「こうなる」と分かっていて、ほんの一瞬でしたが「顎を上げて、顎を上げて」と自分に言い聞かせていました。そして実際にそうしました。事故というのは最初に状況を判断し、その後にショックがやってくるものだと思います。深刻ではないと分かった後に、遅れて衝撃を感じました。
ー事故後、しばらくボウリングボールを持てないと分かった時、どのような気持ちでしたか?
ダリア:私の頭はすぐに「何をすべきか」に向かいました。未知への恐怖にとどまるのではなく、方向性が必要でした。初期の段階で一番助けになったのは、両肘が骨折していたにもかかわらず手術が不要だと専門医から聞いたことです。
医師は、関節が固まる前に柔軟性を保つため、すぐに軽く動かし始める必要があると説明してくれました。それがすぐに取り組むべき目標となり、精神的にも大きな支えになりました。
彼氏は本当に私のヒーローでした。転倒後の数日間、私は通院しなければならなかった一方で、900Globalのミーティングも一度も欠かしませんでした。彼はポニーテールを結んだり、顔にファンデーションやクリームを塗ったりするのがとても上手になりました(笑)。

3か月の空白から復帰へ。痛みと向き合いながら取り戻す感覚
ーどれくらいで再びボウリングボールを持てるようになりましたか?久しぶりに投げた時の感覚は?
ダリア:約3か月後に再びボールを持てるようになりました。最初はとても軽く、ファウルラインに立って6ポンドのボールでリリースの感覚だけに集中しました。その感覚は驚くほど自然で、大きな希望を感じました。
しかしその後の数週間は難しいものでした。練習中に鋭い痛みが走り、本当に怖くなりました。「何かが永久に変わってしまったのではないか」と自問しました。また、新たな課題もありました。
私はこれまでのキャリアで、バックスイング時に肘を過伸展させていましたが、骨折後はそれができなくなりました。脳は以前の動きを求めるため、現在はエルボーブレースを装着し、新しい動きに適応している最中です。
ー復帰は簡単ではなかったと思います。最大の課題は何でしたか?
ダリア:身体的・精神的な課題は切り離せないものでした。
ギプスはわずか2日で外され、すぐに動かし始めました。回復に役立ったのは意外にも入浴でした。私はお風呂が大好きで、温かいお湯の中でゆっくり肘を曲げ伸ばしすることで柔軟性が戻ったと感じています。
約7週間後にリハビリを開始し、徐々にボウリングも再開しました。ただし、体の声を聞くことが重要でした。鋭い痛みがあれば即中止、鈍い痛みなら慎重に続けるというルールを設けました。
日によって調子は大きく異なり、短時間しか投げられない日もあれば長く投げられる日もありました。この不確実さは精神的に疲れるものでしたが、同時に強い意志も育ててくれました。
ー現在の状態はどうですか?良いコンディションまで戻せていますか?
ダリア:今は痛みはありません。この言葉を口にできること自体、とても意味のあることだと感じています。ですが正直に言うと、ボウリングの感覚は少し鈍っていると感じています。
体の回復とプレーの回復は別のプロセスです。体の強さは戻り、痛みもほとんどなくなりましたが、今は別の種類の努力が必要です。現在はまさにその段階にいます。レーンの感覚を取り戻し、離れていた期間に失われたゲームの細かい部分を再構築しています。時間はかかりますが、この「自分を取り戻す過程」を本当に楽しんでいます。
ボールの重さについても、徐々に6ポンドから12ポンド、13ポンド、14ポンド、そして15ポンドと戻していきました。事故前に使っていたのは15ポンドです。しかし、体は強くなったと感じている一方で、プレーの感覚としては14ポンドの方が良く感じられたため、PWBAツアーでは15ポンドではなく14ポンドを使用することを決めました。
ー100%の状態に戻るのはいつ頃だと考えていますか?また完全復帰の目標としている大会はありますか?
ダリア:目標は、4月末にイリノイ州ロックフォードで行われるPWBAツアー2026シーズン開幕戦です。新シーズン最初の大会であり、私にとっては単なる試合以上の意味を持つ大きな節目でもあります。
私は感謝の気持ちと強い決意を持ってその大会に臨みます。初日から100%の状態でないかもしれませんが、それについてはすでに受け入れています。大切なのは、再びレーンに立ち、競技に復帰できるということです。この6か月を経て、それだけでも祝う価値のあることだと感じています。

支え続けてくれた日本のファンへ。感謝と再訪への思い
ー日本のファンへのメッセージをお願いします
ダリア:回復期間中に寄せていただいた気遣いは、私にとって大切な気づきを与えてくれました。私は自分のためだけにボウリングをしているわけではないということです。
遠く離れた場所にいる方々が私の状況を気にかけ、進捗を見守り、心から心配してくださっていたことは、言葉では表現しきれないほど心に響きました。回復の中には辛い瞬間もありましたが、応援してくれる人がいると感じることで、それを乗り越えることができました。
すべてのメッセージと温かい思いに心から感謝しています。そのすべてを胸に刻んでいます。
また、2月に日本で予定していたイベントをキャンセルせざるを得なかったことについて、日本のファンの皆さんとABSの皆さんにお詫び申し上げます。次に日本を訪れる際には、その分をしっかりお返しできればと思っています。
ー日本や日本のボウリングについてどう思いますか?
ダリア:2017年から900 Globalの代表として日本を訪れており、これまで多くの都市を訪問してきました。どの旅も異なる会場、異なる出来事、異なる思い出がありますが、共通しているのは「帰ってきた」という感覚です。日本は、私にとって第二の故郷のような存在です。
レストランで何を食べたいかも分かっていますし、セブンイレブンで好きな商品も決まっています。お気に入りの美容ブランドもあり、多くの人々やプロボウラーとも知り合いました。毎回本当に素晴らしい体験です。
日本の魅力は一言では語れません。ファンの熱意、ボウリングのレベルの高さ、競技に対する敬意、食事の素晴らしさ(CoCo壱番屋のチキンカツカレーは毎回食べても飽きません)、街の清潔さ、人々の思いやり、そして日常の細部にまで行き届いた配慮。これらすべてが組み合わさって、日本ならではの特別な魅力を作り出しています。

日本のファンからの贈り物に感謝「思いやりが何より心に残る」
ー前回の日本訪問後、ファンの方々から受け取ったプレゼントの写真をシェアされていましたが、その中で特に驚いたものや、印象に残っているものはありますか?
ダリア:日本でいただくプレゼントで最も心を動かされるのは、物そのものではなく、その「気遣い」です。そしてその気持ちは長く私の中に残り続けます。
何年も経った後でも、料理をする際にいただいたスパイスを使ったり、丁寧に包装されたキッチンばさみを使ったり、スキンケア商品を使うたびに、その時の記憶がよみがえります。
名前入りのタオルや、日本のスキンケア商品も家にたくさんあります。それらを使うたびに、「自分が本当に使って喜ぶものを考えてくれた人」のことを思い出します。そのような思いやりはとても貴重で、決して当たり前とは思っていません。
手紙やイラストもすべて大切に保管しており、一部はアメリカに、残りはポーランドに置いてあります。
また、日本に行くたびに必ず枕を買うのが個人的な習慣になっています。日本の枕は他では見つけられない特別な品質があります。そして次回ぜひ体験したいのが日本のヘッドスパです。アメリカで似た体験をしたことはありますが、日本のものは格別だと聞いており、とても楽しみにしています。
ー今後アジアツアーの予定はありますか?
ダリア:現時点では確定しているものはありませんが、実現に向けて積極的に動いており、ぜひ実現したいと考えています。
日本は私のキャリアにおいて非常に重要な存在であり、ファンとのつながりも深く大切にしています。具体的な時期についてはまだ約束できませんが、「戻るかどうか」ではなく「いつ戻るか」の問題です。その日を心から楽しみにしています。
日本のファンの皆さんが毎回温かく迎えてくれたことが、900 GlobalやABSが私を日本に派遣し続けてくれた理由でもあります。皆さんのサポートは、私のキャリアと人生に大きな影響を与えてくれました。
今回のインタビューを通じて浮かび上がったのは、ダリア・パヨンクの強さは単なる技術だけではないという点だ。思い通りにいかない状況の中でも現実を受け入れ、自らの課題と向き合い続ける姿勢こそが、彼女をトッププレーヤーたらしめている。
事故によって一度は立ち止まることを余儀なくされたが、その経験は新たな気づきと成長をもたらした。身体の回復だけでなく、プレーや考え方の再構築を経て、彼女は今、新たなステージへと踏み出そうとしている。
そして何より印象的だったのは、日本のファンに対する深い感謝と特別な想いだ。「第二の故郷」と表現するその言葉からは、これまで築いてきた絆の強さが伝わってくる。復帰後、再び日本のレーンに立つ日を、多くのファンが心待ちにしている。