トランプ大統領が再び言及したことで注目を集めている「ボウリング球テスト」という言葉。直訳すると、車の上にボウリング球を落として強度を調べる試験のように聞こえるが、実際にはそのような試験は存在しない。
日本の自動車には厳格な安全基準が設けられており、新型車を販売する際には「型式指定」という制度のもと、国土交通省が定めた43項目の基準に適合しているかどうかを確認している。その中には「歩行者保護基準」を調べるため、人の頭部を模した球状の装置をボンネットに衝突させる試験も含まれる。
この試験では、装置を時速35キロで衝突させ、衝撃の大きさを測定する。装置はおよそ2メートルの高さから落下させるのが一般的で、ボンネットがへこむことは、歩行者への衝撃を吸収する上で安全上望ましいとされる。トランプ氏が語った「6メートルの高さからボウリング球を落とし、少しでもへこめば不合格」という話とは、内容も趣旨も大きく異なっている。
この「ボウリング球テスト」というフレーズが世間に広まったのは2018年のこと。トランプ氏が大統領1期目の際、日本の自動車市場を批判したのがきっかけだった。当時、彼は「日本の規制は理不尽で、アメリカ車が締め出されている」と主張したが、専門家や政府関係者は事実無根だと即座に反論。アメリカ国内のファクトチェック団体も「うそ」と結論づけた。その後、ホワイトハウス報道官も「冗談だった」と釈明したが、フレーズだけが強い印象とともに残った。
そして2025年4月、トランプ氏は再び自身のSNSで「非関税障壁」の例としてこの話を取り上げた。関税交渉をめぐり「各国は不公平な仕組みを正さなければならない」と主張し、その一例として「日本のボウリング球によるテスト」を挙げたのである。実際には存在しない試験を象徴的に持ち出すことで、日本市場におけるアメリカ車の販売不振を強調しようとしたとみられる。
国土交通省は改めて「ボウリング球を使った国の試験は存在しない」と否定しており、検査は国連の協定に基づく国際基準に沿って行われている。EUや韓国も同じ基準を採用しており、むしろ独自基準を多く設けているのはアメリカ側だ。結局のところ「ボウリング球テスト」とは、現実の制度に基づくものではなく、政治的交渉の中で生まれた比喩的な表現に過ぎない。