アメリカのプロボウリングを統括する組織PBA(Professional Bowlers Association、アメリカプロボウリング協会)は、世界最高峰の舞台として多くのファンに親しまれてきた。ツアーで活躍する選手たちは常に注目を浴び、テレビや配信を通じて世界中にその姿が届けられている。プロボウリングを語るうえで、PBAの存在は欠かすことができない。
しかし、その「協会」という名称からイメージされる伝統的な団体運営とは裏腹に、現在のPBAは大手企業の傘下にある。実際には、アメリカ最大のボウリング場運営会社であるボウレロ(現・ラッキーストライク・エンターテイメント)によって買収され、企業経営のもとで大会が行われているのだ。では、この特異な運営の仕組みはどのように成り立っているのだろうか。
PBAの歴史と変遷
PBAは1958年、ボウラーたちが自らの競技環境を整えるために立ち上げた組織だった。当時はまだボウリングが大衆的娯楽の一つに過ぎなかったが、プロの大会を体系的に行うことで、ボウラーの地位を高め、競技としての発展を促そうという狙いがあった。設立からしばらくは、選手自身の参加費やスポンサー収入をもとに小規模ながらツアーが展開されていた。
その後、テレビ中継の広がりとともにPBAは急成長を遂げる。特に1960〜70年代は、アメリカ国内でボウリング人気が最高潮に達し、PBAツアーの試合はゴールデンタイムで放送されるほどだった。しかし80年代以降、ボウリングの競技人気が徐々に低下。運営資金や視聴者獲得の面で厳しい状況が続き、協会の経営基盤は不安定さを増していった。
メディアとの連携と買収
2000年代に入ると、PBAはESPNやCBS Sports Networkといったテレビ局と契約し、安定的な放映体制を築くことで再び注目を集めるようになる。だが、大会運営には巨額の資金が必要であり、視聴率やスポンサー収入だけでは十分ではなかった。プロスポーツとしての存続を図るため、PBAは外部の資本導入を模索し始める。
2019年、ついに転機が訪れる。全米で数百のボウリングセンターを運営するボウレロ(Bowlero Corporation)がPBAを買収したのである。この買収により、PBAは資金面で大きな安定を得ると同時に、ボウリング産業の巨大企業のもとで新たなビジネス展開を進めることになった。
ラッキーストライクによる経営体制
さらに2024年末、ボウレロは社名をラッキーストライク・エンターテイメント(Lucky Strike Entertainment Corporation)へと変更した。これに伴い、現在PBAはラッキーストライクの一事業部門として運営されている。つまりPBAは「協会」という名を持ちながらも、実態は企業グループが管理するプロスポーツリーグとなっている。
ラッキーストライクは娯楽としてのボウリングに強みを持つ企業であり、マーケティングや資金調達のノウハウをスポーツ運営にも応用している。近年では大会賞金の増額、デジタル配信の拡大、ファン参加型イベントの実施など、従来のPBAにはなかった取り組みが次々と導入された。これらの施策は、企業による安定的な経営基盤があってこそ実現したものといえる。
協会から企業リーグへ
PBAの仕組みは、他のスポーツ団体と比較してもユニークだ。たとえばゴルフのPGAツアーや野球のMLBは「協会」や「リーグ」として独立した組織が中心に運営しているが、PBAは企業経営の中に組み込まれている。そのため、選手たちは単に協会員という立場だけでなく、企業が提供するビジネス環境の恩恵を直接受けている。
選手にとって、この構造は必ずしもマイナスではない。企業の支援によって大会数や賞金が増え、スポンサー獲得のチャンスも拡大。特に若手選手にとっては、安定した舞台で自身をアピールできる環境が整ったといえる。一方で、ビジネス優先の運営が進むことで、スポーツの純粋性が損なわれるのではないかという懸念も根強い。
今後の展望
PBAが今後どのような方向へ進むかは、企業としての合理性と、スポーツとしての魅力をどう両立させるかにかかっている。ラッキーストライクはこれまで、ボウリング人口の拡大や国際大会の強化を通じて市場を広げる姿勢を見せてきた。今後はデジタルメディアを活用した配信や、海外市場へのアプローチがさらに加速すると予想される。
企業による運営は賛否両論あるものの、結果としてPBAが安定して存在し続け、選手やファンに新しい価値を提供していることは確かだ。いまやPBAは単なる「協会」ではなく、企業の力を背景に進化を続けるプロスポーツリーグとして、新たな時代を迎えている。