「真似しないで」と言われた男。PBAジェイコブ・バターフが愛された理由

ジェイコブ・バターフ 写真:nohughes@pba.com/提供:Media Valet

世界のボウリング界は、32歳という若さでこの世を去ったジェイコブ・バターフの突然の訃報に大きな衝撃を受けた。PBAツアーを代表する左腕として数々の名勝負を演じ、世界のトッププロとして第一線で活躍してきた彼の死は、多くの選手やファンに深い悲しみをもたらしている。

バターフは、唯一無二の存在だった。独特な投球フォームで世界中のファンを魅了し、数々のタイトルを獲得。その一方で、レーンを離れれば誰にでも分け隔てなく接する人柄でも知られ、競技者としてだけでなく、一人の人間としても多くの人から愛され続けた。

今回は、そんなジェイコブ・バターフの競技人生を振り返りながら、意外と知られていないエピソードや素顔を紹介する。なぜ彼は世界中から愛され、今なお多くのボウラーの記憶に残り続けるのか。その理由を6つの視点から紐解いていきたい。


「真似しないでください」と紹介された世界唯一のフォーム

ジェイコブ・バターフを見たことがある人なら、一度でそのフォームを忘れることはないだろう。

左腕を大きく背中側へ回し込み、まるで身体全体をねじるようにリリースする独特のスタイルは、PBAの中でも群を抜いて個性的だった。初めて映像を見たファンの多くが「本当にあれでコントロールできるのか」と驚き、そのフォームは世界中で話題になった。

そのあまりの独特さから、USBCは彼を特集した記事で「Do Not Try This Approach at Home(自宅で真似しないでください)」というユーモアあふれるタイトルを使用したほどだ。

しかし、見た目のインパクトだけでは世界一にはなれない。誰にも真似できないフォームを、世界最高レベルの武器へと磨き上げたことこそ、ジェイコブ・バターフ最大の才能だった。


PBAリージョナル9勝から世界の頂点へ駆け上がった

現在ではPBAを代表するスター選手として知られるバターフだが、決してエリート街道だけを歩んできたわけではない。

転機となったのは2016年。PBAリージョナルツアーで年間9勝という驚異的な成績を残し、一気に全米の注目を集めた。地方大会で経験を積み重ねながら、自らの実力で世界への扉をこじ開けたのである。

翌年にはTeam USA入りを果たし、さらにQubicaAMFワールドカップ優勝、USBCマスターズ制覇へと駆け上がる。その急成長は、「努力で世界一になった選手」の代表例として今でも語り継がれている。


ジェイコブ・バターフ 写真:nohughes@pba.com/提供:Media Valet

実績以上に評価された「人柄」

今回の訃報で印象的だったのは、世界中のプロボウラーが語った内容だった。多くの選手は「世界王者だった」「PBAタイトル8勝だった」といった実績よりも、「本当に優しい人だった」「誰にでも同じように接してくれた」と、その人柄について語っている。

ジェイソン・ベルモンテ、EJ・タケット、アンソニー・シモンセン、Hammer(ハンマー)など、数え切れないほどの関係者が追悼メッセージを投稿。その多くが、競技者としてだけではなく、一人の人間として尊敬していたことを明かしている。

世界最高峰で戦いながら、誰からも愛されたトッププロは決して多くない。ジェイコブ・バターフは、その数少ない一人だった。


実は「運が悪すぎた天才」だった

バターフはPBAメジャータイトルを1勝しか挙げていない。しかし、この数字だけを見ると、彼の実力を大きく見誤ることになる。

メジャー大会では何度も決勝へ進出し、あと一歩でタイトルを逃した試合が数多くあった。そのため海外ファンの間では、「あと数ピン違えば、PBA殿堂入り級のタイトル数になっていた」と語られることも少なくない。

実際、2025年にPBAが発表した「過去25年間のベスト25ボウラー」では18位にランクイン。タイトル数以上に、世界トップクラスの実力者として高く評価されていた。


バターズの愛称で親しまれた人気者

ツアー仲間は皆、彼のことを『Butters(バターズ)』と呼んでいた。試合中は真剣そのものだったが、レーンを離れると笑顔を絶やさず、若手選手にも積極的に声を掛ける存在だったという。ファンサービスにも積極的で、サインや写真撮影を断ることはほとんどなかった。

だからこそ訃報が伝わると、トッププロだけではなく、一般ファンやアマチュアボウラーからも数え切れないほどの追悼メッセージが寄せられた。ボウリング界全体が、一人の仲間を失ったような空気に包まれたのである。


世界中が涙した本当の理由

ジェイコブ・バターフが32歳という若さでこの世を去ったことは、世界中のボウリング界に計り知れない衝撃を与えた。

まだキャリアの途中だった。これからもメジャータイトルを増やし、PBA年間王者や殿堂入りを目指していくと、多くの人が信じていた。

しかし、彼が残したものは決してタイトルだけではない。「教科書どおりではなくても世界一になれる」という勇気を与えたフォーム、人を惹きつける温かな人柄、そして世界中のボウラーから寄せられた数え切れないほどの感謝の言葉。そのすべてが、ジェイコブ・バターフというプロボウラーの偉大さを物語っている。

レーンで生み出した数々のストライクは止まってしまった。それでも彼がボウリング界に残した影響と記憶は、これから先も色あせることなく、多くのファンの心に生き続けるだろう。

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